|
遊磨正秀(ゆうま まさひで) 理学博士(京都大学) |
YUMA, Masahide (D.Sc.) |
|
私は,水域や陸域の動物を対象に,多様な動物群集の成立要因,ならびに人為的活動とそれに対する動物群集の応答について,各種各個体の具体的な場所利用に注目しながら研究を進めています。これらの研究は,近年社会的に必然のことになってきた生物多様性あるいは自然環境の保全や復元の技術開発の基礎となり,さらに自然文化の継承に貢献するものです。
限られた空間に複数種の複数個体が生息している場合,そこにはさまざまな種間・個体間の相互作用が見られます。その相互作用の一つに,その場における種類数や個体数を増加させるような協調的(共生的)関係があります。私の場合,タンガニイカ湖やマラウィ湖の魚類を用いて,各個体の場所利用と同種・他種個体との相互干渉を調べ,近隣の他個体の存在が種数や個体数を増やす作用や,底生動物とそれを食べる魚類の間の相互作用の解析に挑戦してきました。近年は,日々目前の琵琶湖を眺めながら,琵琶湖の動物群集についても思いを巡らしています。そして,琵琶湖やその流入河川においては,単なる環境改変だけでなく,さまざまな人為作用が加わったり,また乏しくなっていることに改めて気づきました。
琵琶湖に限らず,あらゆる環境において人為作用に伴って生物群集は変化します。とくに水域に関しては,水を使う水田農耕が発達してきた日本では,水田という浅い湿地,その周囲の用排水路網,ため池などの人為的水系が平野部から山麓部まで広がり,それら人工的な水域が天然の湿地に代わって,一群の生物群集を保ってきたばかりでなく,人による水系の維持管理が,ある種の環境撹乱作用に相当し,それによってむしろ多様な生物群集が保たれてきたようです。ホタルや小魚類の多くはそのような場所に依存して暮らしてきました。これは,かつて自然資源を多く利用し,また利用しやすいように手を加え続けてきた里山と類したことがらです.そのように人手が加わった里山環境には独特の多様な生物群集が維持されてきましたが,近年の里山利用の減少が里山生物の多様性の衰退につながっていることも周知のこととなってきました。このような意図せざる人の営みやその変遷に対する生物の応答について,さらに里川や里山といった身近な自然環境の中で育まれてきた自然文化についても研究を進めています。
研究内容を示すキーワード:動物群集,場所利用,個体間相互作用,琵琶湖,タンガニイカ湖,マラウィ湖,人為作用,稲作文化,河川,水路,中規模撹乱,身近な自然,里川,里山,自然文化